たとえばそれが始まりだったとして
◇◆◇
「じゃあ行ってくるね」
遠藤とみーこに手を振って教室を後にする。
隣の三組を横切る際にちらっと見てみたがまだHR中のようだった。
「そういえば、桐原君も三組だっけ。ふふふ」
桐原君の笑顔が頭に浮かんで、自然と私も笑顔になる。……って、ひとりで思い出し笑いとか!?急に恥ずかしくなって、俯いて夢中で階段を上ったのだった。
やって来たのは、屋上。正しくは、屋上へ続く階段、その踊場。
相変わらず閑散としていて人気が全くない。雨が屋上を叩く音がすぐ近くで聴こえる。ドアの隙間から漏れてくるのか、心なしか空気も冷たい。ちょっとだけ、空に近づいた気分だ。
あの日、桐原君に告白された場所。断って、それを断られて。思えば、此処がすべての始まりだったのかもしれない。
ミーティングはもう始まったのかな? ミーティングが終わるまでに教室に戻らなきゃ。桐原君が教室に来た時私がいなかったら心配する。そもそも、どうして此処に足を運んだのかというと――。
「小春ちゃん」
気配とともに踊り場に声が響く。ゆっくりと振り返れば、私を呼び出した人物、眞鍋芳之その人が笑みを湛えて優しげな表情でそこに立っていた。
眞鍋君とは、みーこを通して知り合った人生初のメール友達である。二年三組男子テニス部所属。趣味は熱帯魚の飼育と音楽鑑賞。好きな食べ物は筑前煮と海老のチリソース、嫌いな食べ物は椎茸。年の離れたお姉さんが一人いて、そのお姉さんは既に結婚して家を出ているので現在お母さんとお父さんと三人で暮らしている。以上、メールで教えてもらった眞鍋君情報。