たとえばそれが始まりだったとして
メールではじめましてだったから、少し緊張した。メールなんて用がある時以外滅多に送らないし、絵文字の使い方もいまいちわからない。打つのが遅いくせにどういう風に送ればいいかも悩んで、一通送るのに十五分近くかかってしまった。それなのに返事はすぐに来るから本当に困った。でも、焦らなくて大丈夫だと、ゆっくりでいいと言ってくれたから。私は気を張ることなくメールを楽しむ事が出来たのだ。眞鍋君は気配りの出来る優しい人だった。
その眞鍋君から、会って話がしてみたいとメールをもらったのは昼休みのこと。偶然時間が出来たからちょっとだったらいいかなと了承の返事をしたのだった。
「えーと、眞鍋君だよね?」
「そうだよ。俺が眞鍋」
初めて対面する眞鍋君をまじまじと見る。
百七十過ぎの身長に、ブラウンの髪は長すぎず清潔感が漂っていて、だらしなく見えない程に着崩した制服。そこであれ? と既視感をおぼえた。会ったことある……? いやいや、初対面のはず。でも待てよ、私の記憶力は当てにならない。じゃあやっぱり何処かで? うーん。
眞鍋君が眉を寄せ考え込む私を面白そうに眺めているのにも気付かずに、私は記憶の糸を手繰り寄せる。その結果、
「あのさ、眞鍋君。あたし達ってどこかで会ったことあったりする?」
口から出たのはそんなナンパの常套句みたいなせりふだった。
気付いた時にはもう遅い。口に手をあて目を泳がせる。どうしよう。だけど焦る私を余所に、眞鍋君は可笑しそうに笑っていた。
「やっぱり、わかってなかったんだね小春ちゃん」
きょとんと目を丸くする。
ちなみに、眞鍋君は私を“小春ちゃん”と呼ぶ。何て呼んだらいいかと訊かれたので変なあだ名じゃなければ何でもいいと答えたら、何故か“小春ちゃん”になった。メール上では何も感じなかったのに、いざこうして呼ばれると気恥ずかしいものがある。
「鞄、もう落としていったりしてない?」
眞鍋君はそう言っていたずらっ子のようににっと笑った。
私は“鞄”というキーワードである記憶が甦り、記憶の中の人物と目の前の眞鍋君の姿がピシャリと重なった。
「あ、あの時の! 鞄の人!」