たとえばそれが始まりだったとして
何も言えない私に、
「俺、本気だから」
最後にそれだけ言って、桐原君は去って行った。
誰もいなくなった踊場で、私はその場にへなへなと座り込む。
なんでなんでなんで?
心臓がうるさくって、胸が焼けたみたいに熱かった。
◇◆◇
教室に戻ると、すかさず遠藤とみーこが飛んでくる。
「ちょっと小春! あんたいつのまに桐原と仲良くなったのよ!」
「そうだよ! 聞いてないよ! 桐原君とどういう関係!?」
畳み掛ける二人に答える余裕はなくて、悪いと思いつつ総無視でとぼとぼと自分の席に向かう。
「小春! 聞いてるの!?」
「ふたりとも、桐原君知ってるの?」
椅子に落ち着いたところで、訊ねてみる。けれど私の発言に余程驚いたのか、二人は目を丸くして顔を見合わせた。
「『知ってるの』って、桐原君有名人だよ、ハル……」
「二年三組桐原修一。サッカー部の超有望株、爽やかな笑顔が女子に人気。明るい性格から男女問わず友達が多く、授業態度も極めて良好。ま、要するに嫌みのないモテ男ってことよ」
やけに詳しいな遠藤。
「でもさー高校入ってからことごとく告白断ってるらしいんだよね。私の知り合いもダメ元で告ったみたいなんだけど、好きな人がいるの一点張りで、やっぱりだめだったらしいよ」
だから二人とも詳しすぎだろう。
「サッカー部の爽やかエース君の正体は単なる純情少年、ねえ……って――!」
「!」
わ、なに。
そんなまさかって顔で見ないでよ。
やれやれと二人から視線を外してため息を吐く。
「告白、されたよ」
しーん。
まさかの無反応。
しかし次の瞬間、二人は堰をきったように詰め寄ってくる。
「それで、あんたは何てこたえたの!」
「無理です、って」
「ちょちょちょっと待って、ハル、断ったの!? なんで!」
好きじゃないし、と漏らせば、二人は信じらんない! と大袈裟に嘆いてみせた。そんなこの世の終わりみたいな顔しなくても。
「せっかくハルに彼氏ができるチャンスだったのにー」
心底残念そうだった。