たとえばそれが始まりだったとして


しかしこの空気は堪えられないぞ。

どうにかして! そう願いを込めて縋るように眞鍋君に視線を送った。すると、なんと気付いた眞鍋君は一度ニコッと微笑んで、それから願い通り沈黙を破ってくれた。

「桐原君、ダメじゃない。そんなピリピリしてるから彼女、困ってるみたいだよ?」

って眞鍋君!
確かにどうにかしてって思ったけど、火に油を注いだだけな気がするのは私だけですか。というか、別に桐原君をどうにかして欲しかったわけではないんだけどね。

「春日原さん」

弱々しいその声にはっと見上げると、桐原君が眉を下げて不安気にこちらを見ているではないか。本当、桐原君て素直だなあ。思わず笑みが漏れる。

「大丈夫だよ。桐原君には困ってないよ。困ってるのはこの状況で……って、そうだ、そもそも眞鍋君は何でこんな事したの?」

一番大切な事を忘れていた。危うくさらっと水に流すところだった。眞鍋君は私を好きじゃない。これは間違いないとして、その理由を聞いていなかった。

「一応、知る権利はあると思うのですが」

口当たったし。何気に初めてだったし。いや、それは忘れるって決めたんだっけ。じゃあ、これは好奇心。単なる、興味。って誰に言い訳してるんだろう。

「うん、そうだね。俺が小春ちゃんを好きじゃないってバレてるし、ここまできて隠す必要はないか」

眞鍋君は笑っていた。その笑みが、何を意味してるのかなんて、私には分からない。

「じゃ、ネタバレって事で」

少しだけ、緊張した。
眞鍋君は一度私を見て、それから目を移すと、真っ直ぐ桐原君を見ながら、話し出した。

「小春ちゃん、身構えてる所悪いけど。原因はね、桐原、お前だよ」

隣を見なくても分かる。私と桐原君二人の頭には今疑問符が浮かんでる。

「今から半年くらい前かな。その時付き合ってた彼女がね、冬休みを直前にして、突然こう言い出したの。『他に好きなひとができたから別れてほしい』って」

眞鍋君は、桐原君から目を外さない。


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