たとえばそれが始まりだったとして


「それまで、そんな素振りまったくなかったのに、ある日突然。おかしいと思ってちょっと問い詰めたら案の定、彼女泣きながら言ってきた。『本当は芳之と付き合う前から好きだった。でも告白されて、どうせ片思いだし付き合ってもいいと思ったの。でも、やっぱりそのひとが好きだから、芳之とは付き合えない』……ごめんって言われたよ」

そこまで言うと、眞鍋君はふっと口元に自嘲の笑みを浮かべた。

「俺は悔しくて、彼女と付き合えると喜んだ自分を馬鹿だと思った。何も知らずに彼女に好きだと伝えて、彼女も自分と同じ気持ちだと信じて疑わなかった。自分といる時に他の男のことを想ってるだなんて誰が思う? けど、結局俺の独り善がりでしかなかったんだ」

話を聞きながら、思う。
桐原君は今、何を思ってるのだろうと。

「別れを切り出された時は、悲しかった。でも、俺に別れを告げたのは彼女なりのけじめだったんだ。彼女は、俺じゃないその好きな奴に、告白するつもりだった。止めたかったけど、彼女の意志は固くて、俺なんかの言葉じゃ動かないって分かってた。だから彼女を応援した。俺をふったんだから、せめて彼女の恋が叶うように」

だけど。そう、眞鍋君は続けた。

「終業式の日、偶然俺が見たのは、告白して断られ、泣きながら走り去る彼女の姿だった。俺も聞いてたよ、彼女がふられた理由。『好きな子がいるから、ごめん』ただ一言、それだけだった。迷う事も考える事もせず、その男子生徒はきっぱりと言い切った」

その時、肩に感じていた手が一瞬震えたような気がした。

「彼女なんて一切眼中にないようなその態度がどうしようもなく許せなかった。俺が欲しかったその子を手にするチャンスをあっさりと手放したんだ。そこでふと興味が湧いた。他の女子を一蹴するくらい惚れてる子がどんな子かってね。けど、その男子生徒とはクラスも部活も違ったし、すぐには分からなかった。そして二年になってクラス発表を見た時、自分は運が良いんじゃないかと思ったよ。そう、その男子生徒と同じクラスだったんだ」

私は左肩に置かれた手を、自分の右手でそっと握りしめた。


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