たとえばそれが始まりだったとして
ごめんねみーこ、期待に副えなくて。
でも、彼氏はいらないから。桐原君のことも、きっとすぐに忘れちゃうよ。
「ふったのはあんたでしょう。なのになんであんたがそんな悲しそうなのよ」
「え」
不意打ち過ぎた遠藤の言葉に、言葉を失う。そして次の遠藤の一言で、私の思考は完全にショートした。
「だってあんた、今にも泣きそうな顔してる」
だって。
『俺、本気だから』
そう言った桐原君の目があまりにも真剣で、焼き付いて、頭から離れないんだ。
そして、どこかでそれを嬉しいと思ってしまった自分が、確かにいた……。
◇◆◇
「――ん」
目を開けると、そこはオレンジ色の世界だった。
薄暗い部屋には不似合いな光が窓から差し込んでいて、ぼんやりした頭で今が夕方なのだと理解した。
重い頭を動かして、寝返りをうつ。
あのあと――。
遠藤から衝撃的な一言を告げられ放心状態になった私。
先刻の踊場の件もあり、とても授業なんて受けられる気分じゃなかった私はやむなく早退することにした。目指していた皆勤賞もこの時ばかりは頭から抜けていた。
職員室で早退の旨を担任に伝えて(実際具合悪そうに見えたらしい、安易に許可は下りた)、心配そうに見送るみーこと遠藤を残し学校を後にした。
そうして家に帰ったはいいが、まだお昼、誰もいるわけがなく。
ひとりでいるとどうしても考えてしまうので、とりあえず寝ていればそれもないと思いベッドに入って。
そのまま眠りにつき、目が覚めたのがさっき、日も暮れた頃だったというわけだ。
……だいぶ寝たな。
ふう、と天井を仰ぐ。
額に手を乗せて、ゆっくりと瞼を閉じる。
「あ」
そこで思い出す。
「あんぱん忘れた……」
最悪だ。