たとえばそれが始まりだったとして
慌ててフォークを口から出した私に、お姉ちゃんは咎める様子もなく、視線を外して決まり悪そうにぽつりと言った。
「……体調管理くらい、自分で出来るから」
それは、心配してくれてありがとう、そういう意味。心配かけてごめん、これも含んでいるのかもしれない。予想外の言葉に私は黙々と残りのペンネを平らげた。
その後立ち寄った雑貨屋さんで、偶然目に入ったキーホルダー。二足歩行をした柴っぽい犬がユニフォームを着て後ろ脚を片方サッカーボールに乗せている、ちっちゃいぬいぐるみみたいなキーホルダーだった。それがあまりに桐原君に似ていて、迷わずレジへ向かった。典型的な衝動買いだな。まあ、買ってしまったものは仕方がない。昨日のお礼とお詫びを兼ねてプレゼントしようと瞬時に閃いた。
思い出すのも恥ずかしい、昨日の放課後。お詫びというのは、迷惑を考えず泣いて困らせちゃったのと、涙で(鼻水はないと信じたい)ワイシャツを濡らしちゃった事への。流石にワイシャツのシミを公に晒すわけにはいかずセーターは桐原君に返した。幸い、自分のセーターが教室においてあったので桐原君に気を遣わせる事もなかった。
そしてお礼というのが、セーターを貸してくれた事もそうだし、踊り場に来てくれたのも然り、泣き出した私を放置せず一緒にいてくれたのも、また然り。とことんお世話になってるなあと申し訳なさを感じてしまう程、桐原君には頼ってしまっている気がする。だからってわけでもないけれど、とりあえず、月曜あたりにでも、このキーホルダーを渡してみよう。桐原君に似ていると伝えたら、どんな顔をするのかな。微かな期待に胸が躍った。