たとえばそれが始まりだったとして
時刻は四時を回っていた。
まだまだ人通りは衰えない。昼を越して暑さが和らぐかと思いきや、そんな事はなく、未だに湿気が肌に纏わりついて正直鬱陶しい。完全に日が落ちれば、もう少しましになるだろう。
通りを歩く私の両手には、様々なお店のロゴが入った紙袋。お姉ちゃんは数歩先を行き、私は完全に荷物持ちと化していた。
帰りたい。それか何処かで休みたい。だけどお姉ちゃんはまだ買い物を続けるみたいで、新たに店へと入って行った。ろくにお昼も食べてないのに、あの元気は何処から来るのだろうか。……そうじゃないか。元気なんじゃない。行き場のない気持ちを買い物にぶつけているだけなんだ。どうしたらいいのか分からなくて、がむしゃらに買い物を……。それもある意味厄介だな。けど、それでお姉ちゃんの気が少しでも紛れるのなら、今はそれでもいい。
そう思い、お姉ちゃんの後を追ってお店に入ろうとドアノブに手を伸ばした時だった。触れてもないドアがひとりでに開いて、自動ドア? なんて馬鹿な考えが浮かぶより前に、開いたドアから物凄い勢いで人が飛び出て来て、ぶつかりそうになるのをすんでのところで脇へ移り回避した。
「こっ小春ー!」
私に衝突未遂を働いたのは自分の姉だった。ヒステリックに叫ぶ姿にぎょっとしながらも、落ち着いて声を掛ける。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
お姉ちゃんは携帯を握り締め、泣きそうになりながら答えた。
「かっ和巳から、っ電話!」
確かに、お姉ちゃんの手の中の携帯はバイブで震え着信を知らせている。
「ど、どうしよう小春!?」
着信中の携帯を見つめ、眉を下げて取り乱すお姉ちゃんに、優しく言い聞かせる。
「出なよ。早くしないと切れちゃうよ?」
「でっでも!」
「せっかく電話して来てくれたんだから、ちゃんと仲直りしておいで。和巳さん、待ってるよ」
「っうん!」
目に涙を浮かべてもうほとんど泣いている状態だ。お姉ちゃんは急いで携帯を開くと通話ボタンを押し恐る恐る耳に当てた。