たとえばそれが始まりだったとして
えー、春日原小春。
ただいま春日原家宅・冷蔵庫を捜索中。
玉ねぎ、と卵、お肉はないから代わりにウインナー、オムライスに決定。
材料を取り出してキッチンに置く。
なにげにお昼抜きだったからね、だいぶお腹が悲鳴をあげてるわけですよ。
おまけに、期待に胸を膨らませて楽しみにしていた高級あんぱんは遠藤に預けたまんまで結局食べそこなうし。遠藤も言ってくれればよかったのにな。
いや、自己責任てわかってるけどさ。存外ショックは大きいのだよ。
遠藤とっておいてくれるかなあ。
後でメールしておこう。
次の日でも大丈夫だよね。賞味期限一日くらい切れたってどうってことないよね。
そう言い聞かせて自分を納得させる。
ま、今日はオムライスで妥協しよう。卵とろっとろにして。あれ美味しいんだよね。
涙を堪えながら張り切って玉ねぎをみじん切りしていると、ガチャリと玄関の開く音がした。
ぱたぱたと足音がして、リビングのドアが開かれる。
「ただいまー」
「おかえり。お母さん」
現れたのは、案の定お母さんだった。
「ふー、疲れたあ。あれ、小春ご飯作ってるの? なになに、オムライス? あーお母さんも食べたかったなあ」
うちはLDK。
テーブルに荷物を置いてお母さんがやってくると、キッチンに置かれた卵とケチャップを見て推理する。だけど私はお母さんの最後のセリフが気になった。
「今日、出かけるの?」
「うん。すぐ出なくちゃ。ってあれ、言ってなかったっけ?」
「そういえば昨日聞いたかも」
「だからご飯はいいからね。さ、着替え着替え」
そう言ってお母さんはバタバタと急ぎ足で自室に向かった。
その途端、我慢していた涙が一筋頬をつたった。目が痛いや。
しばらくすれば、じきにおさまるだろう。まばたきを繰り返していると、痛みは引いた。
フライパンに薄くバターをひいて玉ねぎを炒める。玉ねぎが透明になってきたところでウインナーを入れ、油を足しご飯を入れてさらに炒める。だいたいご飯が炒められたら、ケチャップ、胡椒その他諸々を加えて味見をしながら味を調えていく。
うん、ケチャップライスの完成だ。