たとえばそれが始まりだったとして
「……俺はね、春日原さん。べつに、春日原さんが修一にそういう感情を持てないならそれでいいと思うよ。ばっさりふってくれて構わない。だって、こればっかりは気持ちの問題だからね。修一だって、その覚悟はできてると思うんだ」
三嶋君の口調はふざけた感じのない、凛としたものに変わっていた。
嘘を言っているようには見えなかった。
「あの、三嶋君は、桐原君の友達なんだよね?」
それだけで、私が何を言いたいか分かったらしい。怖いくらいに頭の回転が速い人だ。
「ああ、大丈夫。修一がふられればいいとかそんな酷い事考えてないから。恋愛なんて当人同士の問題でしょ? 好きになるのも付き合うのも本人の勝手だし、ふるのもふられるのもみんな自己責任。それで傷付いたって本人が選んだ事なら仕方ないし、それは誰に限った話でもない。だから修一がふられようと、俺は口を出すつもりはないんだよ」
話しきると、三嶋君は喉を潤すようにゴクリとアイスコーヒーを飲んだ。
「まあ、流石にふられた時は話聞くくらいはしてあげるかな」
涼しい顔をして声を出さずに笑う三嶋君。
三嶋君の考えは私にはよく分からなかった。言っている事は理解できるけど、そんな風に割り切れるものなのかな。だって、友達には傷付いて欲しくないし、友達の好きになったひとが危ない人だったら、きっと私は必死になって辞めるように説得する。三嶋君は本当に桐原君が私にふられてもいいと思っているのだろうか。……そんな事あるはずない。だってそうじゃなかったら、
「……あの、でもじゃあ何で私に桐原君をどう思ってるなんて訊いたの?」
そんな事訊かないよね。
涼しい顔して実は桐原君の事が気になってるに違いない。
「あー……、あれね。うん、あれはただの好奇心」
ほら、やっぱりただの好奇心……って、
「は?」
「だってさ、現実問題一度ふった相手にしつこく付きまとわれるのって気持ち悪いじゃん。修一を気持ち悪いって言ってるわけじゃないけど、実際被害に遭ってる春日原さんはどう思ってるのか興味があってね。どう、正直迷惑してない?」
開いた口が塞がらなかった。