たとえばそれが始まりだったとして
「……迷惑じゃないよ。そりゃあね、朝いきなり家の前に立ってたのには吃驚したけど。桐原君優しいし、一緒にいて楽しいし、温かいし居心地良いし、ちょっと抜けてるのも可愛いし……」
だから、うん、迷惑なんかじゃない。
桐原君の照れた顔を思い浮かべで頬を緩めていると、じっと此方を見つめる三嶋君と目が合って、途端に顔が羞恥に染まる。
「あ、あのですね、だからほんと、迷惑とかじゃないんで安心して下さい。というか寧ろ私の方が迷惑をかけてる感じで、桐原君にはお世話してもらってると言いますか、居てくれて嬉しい存在っていうか。この前もお詫びと称してあんぱんを買ってくれまして、あ、私があんぱん大好きなんでそれで多分……」
にやにやにや。
「!」
「御馳走様です」
「!?」
な、なんて事だ!
桐原君の友達に何を言ってるんだ私は!
「はは、本っ当笑わせてくれるね春日原さん。いやあ面白い」
もう自分の顔が赤いのか青いのかも分からない。
兎に角恥ずかしい。
これはそうだ、半目でちょっと口を開けて寝ているという間抜けな姿を見られた時のような恥ずかしさだ。いや、半目でちょっと口を開けて寝ている姿を見られた事はないんだけど。もし誰かに見られた時は絶対同じような恥ずかしさで苦しむ。これは修学旅行で友達と寝る際は布団を被って寝るしかないな。存分に気をつけよう。というかそもそも私はそんな間抜けな顔して寝ているのだろうか……。
一人で脳内会議をしていると三嶋君が話し掛けてきたので、私は一時停戦する事にし、意識を彼へと向けた。
「ね、春日原さん。さっき俺に言った事、そっくり修一にも言ってあげて。序でに春日原さんが修一をどう思ってるのかもね」
にんまりと、だけど何処か嬉しそうに微笑む三嶋君は、きっと冷たいわけじゃなくて、彼なりに桐原君を想っているのだと、そう思う事が出来た。
「あーあ、春日原さんと付き合ったら修一前にも増してうざくなるんだろうなー。あの締まりのない緩み切った顔は見てて結構むかつくんだよね。苛め甲斐がないし」