たとえばそれが始まりだったとして


「うん、そうだよ。彼氏さんと喧嘩したお姉ちゃんの気分転換で買い物に来たんだけどね、途中彼氏さんから電話があってお姉ちゃんは帰ったの。きっと今頃は仲直りしてラブラブなんだろうなあ」

お姉ちゃんの事がすらすらと口から出たのは、仲直りして安心したからだ。

「そっか。お姉さんと仲が良いんだね。うん、凄い」

「? 三嶋君は兄弟と仲が良くないの?」

「兄弟はいないよ、俺一人っ子だし。年上のね、滅茶苦茶性格の悪い従兄弟がいるんだよ。今日迎えに来てくれるのもその人でさ、もう最悪。親戚でも正直用がなかったら絶対会いたくないよ」

あの三嶋君に渋い顔をさせ此処まで言わせるその親戚の人というのは一体どんな人なのだろう。

三嶋君にも苦手(嫌い?)な人がいるんだなあと妙な感心を覚えていると、携帯の着信らしい音楽が流れた。私ではない、という事は。

「……来た」

三嶋君は苦苦しい表情で携帯を見た。

「じゃあ、俺は行くね。春日原さんも、気を付けて帰ってね」

「うん。三嶋君もよく分からないけど頑張って」

そう言うと三嶋君は苦笑した。

「またね、春日原さん。……修一によろしく」

えっと口にする間もなく三嶋君は雑踏に消えて行った。

「“よろしく”って、三嶋君も月曜には桐原君に会うんじゃないの?」

三嶋君はやっぱり掴みどころのない人だった。
何となく、というには確信に近いのだけれど、三嶋君は最初から私にお金を出させる気はなかったんだろうな。そう考えればメニューを見ながら自分で払うと私が言った時あっさりしていたのも納得が出来る。どうせ何を言ったって最後には自分が払うのだから。
見た目だけは限り無く好青年な三嶋君に、紳士らしい一面があっても変じゃないのかもしれない。


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