たとえばそれが始まりだったとして
始まりの月曜日
人はどうして誰かと付き合うのだろう。
いつか必ず、当たり前のように別れはやってくる。終わりが見えているのにそれでも付き合うことに意味はあるのだろうか。
私は迷っていた。
芽生えたこの気持ちが花咲いたとき、果たしてその先に待つものは何なのか。もうあとほんの僅かな日光と水があれば簡単にそのときは訪れるというのに、それがどうしようもなく怖い。
咲かせた花が本物であるならば、永遠に咲き続けることはないのだから。
◇◆◇
「わかってると思うが明後日から衣替えだぞー。つっても形式上だからな、調整は各自に任せる。男子は学ランだからいいとして、女子はセーラー服を夏服にするように。さっき言った通り、寒かったらセーター着るなり下に着込むなりしろよー。あー、それから……」
野太いわりに気力の感じられない担任の声を適当に聞き流しながら、鞄の持ち手にぶら下がっているそれをぼんやりと見つめる。
ストラップにしては些か大きい全長十二、三センチのマスコットキーホルダー。青いユニフォームを着た柴か秋田らしき犬が後ろ脚をサッカーボールに乗せて立っている。ほんのり上げられた口元が愛らしい表情を作っており、真っ黒い両の目はじっとこちらを見つめていた。
翳りのない瞳と見つめ合っていると、今朝キーホルダーを渡されたときの彼女との会話を思い出す。
『これね、お店で見たときに桐原君に似てるなあと思って買っちゃったの』
『へえ……。ちなみにどこらへんが?』
『んー、なんか桐原君て日本犬てイメージがあるんだよね。穏やかで愛らしさのある中型犬て感じで。ほら、その円らな黒目とかそっくりじゃない?』
楽しそうに同意を求められたが喜んでいいのか正直複雑である。犬っぽいって……。
俺は曖昧に笑った。
『そ、そうかな?』
『うんっ。それに桐原君サッカー部でしょ? これは桐原君のために作られたようなものだと思うんだよね』
自信満々に言い切る彼女に、それ程まで俺はそのキーホルダーに似ているのかと苦笑が漏れた。