問題アリ(オカルトファンタジー)
*




「ジューン、少年を見なかったか、ノエルというのだがな」



「知りませんね。こんなところに人が来ると思うのですか?ケニス様。あなたも通ってきたでしょう、あの鉄格子を」



言われたケニスは眉を寄せ、どこか焦りを混ぜた苦々しい顔をしながら部屋を出て行った。


その会話を、ノエルはぼんやりとした頭で聞いていた。


先ほど血を吐いた部屋の隣にある部屋なのだろう、寝室のようなそこはふわふわとした暖かいベッドがあり、何故か自分がそこで横になっていて、額に濡れた布を乗せていた。


意味がわからない。


身体が熱い。喉が痛い。肺に穴が開いているような掠れた呼吸音。暖かい布団。気持ちいい額。そして疑問。


そうこうしていると、先ほどの老婆がヨイショ、と声をかけながら部屋に入ってきた。



「目が覚めたかい?」



「な、…なんで、俺のこと言わないの…?お金貰えるのに…」



「なんで?私はただ、こんな傷だらけだし医者に見てもらってない様子だから匿ってるだけよ。…よかったら、話してごらん。話したくなければ、それでもいいけど。まぁ、今はそれよりも寝ること。放って置けば治るようなものでもないけど、追われていたらゆっくり寝ることも出来ないでしょう?」



ノエルの頭に老婆の皮膚の弛んだ柔らかい手がポンと、乗る。


それだけでビクッと怯えたノエルだが、その手が暫く頭に乗り、前後に動いてそれが撫でられているものなのだと知ればその怯えは、僅かに消えた。


しかし、老婆を信用して口を割るにはもう少し時間が必要だった。


それほど、ノエルは裏切りを受けてその心は表面に見える傷以上に、ボロボロだったのだ。


血があるのなら、貧血を…、いや、出血性ショックで死んでいることだろう。


いっそ心が死んでくれたらどれほど楽だろうかと、ノエルは考えてはいたが、心を殺す方法も身体を殺す方法も実践できるほどの勇気がなかった。






< 101 / 122 >

この作品をシェア

pagetop