問題アリ(オカルトファンタジー)


一週間ほどゆっくり眠ったことで、ノエルの体調は全快とは言わないものの回復した。


ジューンが作る食事を口にしながらノエルは初めて心の安息というものを体感していた。


美味しい料理、温かいベッド、危害を加えない、人。何よりもそれが一番の初体験である。



「ジューンの作るご飯美味しいね、今まで食べたものの中で一番美味しい」



「それは、今までそれは美味しくないものばかり食べていたんだろうね。私より美味しいご飯を作る人間は沢山いるのよ?」



「そうなの?」



「そうだよ。世界は広いからね、ちょっと国が違うだけで味付けも使う材料も美味しさも違うんだよ」



貧民街とこの屋敷しか知らないノエルはジューンの言葉に熱心に耳を傾けていた。



「これよりも美味しいものがあるなら……きっとお腹が二つないと困るね。ジューンのご飯を食べる分と、違う国のご飯を食べる分」



軽快な笑い声が響いてジューンはノエルを抱きしめた。


最初はそれこそ酷い拒否反応を起こして触られるたびに怯えた目でそれが何なのかと疑惑の目を向けていたノエルだったが、暫くすればそれが愛情表現だということを知り、ジューンの手に怯えることはなくなった。


小さくも大きな一歩。


人の温かさを、自分を陥れるだけの人間だけではないことを知って、少しだけ生きる元気が出たのだろう。


顔色が当初来たときよりも随分と良くなった。


張り詰めた緊張から開放されて心も落ち着きを取り戻し、内面からも力が徐々に出てくるようだ。


しかしそれに比例して、ジューンの体調が崩れるようになった。


外では相変わらずケニスが使用人を使ってノエルを探させている。ノエルは知らないが、その手は街中に伸びていたのだが、誰一人ノエルの行方を知るものはいない。


徐々に報奨金が上がり、皆は血眼でノエルを捜し始める。


ノエルを探す人々は徐々に街中に溢れ、髪に白粉を塗った少年を連れてくる人間が後を絶たずに屋敷へと現れた。


窓からその様子を眺めていたジューンは眉を寄せて、ノエルへと目を向ける。





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