問題アリ(オカルトファンタジー)



「どうかした?ジューン」



「いや、なんでもないよ。そうだ、昔話をしてあげようか」



息子をノエルに投影して、ジューンはノエルを愛していた。


買われた自分が働き詰めていたとき、息子がかくれんぼと称して先代当主の玩具にされて傷だらけにされたこと。


それを咎めれば時計塔に幽閉されたこと。


息子が来れるようにと鉄格子に細工をしたこと。


それでも、いつの頃からか、丁度息子が『また明日』と言わず『バイバイ』と言って去って行った次の日から、姿を見せなくなったこと。


その日から、もう数十年経ったこと。思い返すには重たすぎる記憶である。


出来れば手放したくはない。それでもいつかはバレるかもしれない。逃がすにはもう街でさえも敵だった。


ジューンが匿ったことで、すぐに返さなかったことで、問題は拡大していた。


もう、自分が匿っていたことがバレてもバレなくても、無事であれる保障などない。



「…ごめんね」



聞こえない程度に呟きながらも、ジューンはもう、手放せなくなっていた。自分の首も、ノエルの首も絞める行為だったとしても。


そして、永遠などない。神など存在しない。この世界は、暗いのだと、気づくときは確実に近づいていた。


その日は、とても冷え込む夜。


体調を崩しだしたジューンはベッドから出ることが出来なくなっていた。


提供される食物の減りが早いと気づかれてはいけないと、殆ど食事をしなかった所為で栄養失調になっていたのである。


そして、老衰。


ノエルはジューンと一緒に布団に入り、カタカタと震えながらジューンに引っ付いていた。


が、不意にジューンが咳き込み、ゼェゼェと苦しそうに呼吸を繰り返したのである。



「ジューン…しんどい…?俺、医者を探してくるよ!」



「だ、ダメよ!行っちゃダメ!忘れたの?この屋敷の人間は全員ノエルを食い物にするんだよ、ケニスに見つかったらどうするの!」



「でも、このままじゃジューンが死んじゃうよ!こっそり行って、ナイフで脅せばきっと…!」






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