問題アリ(オカルトファンタジー)
平然と返すリオンに対して、チェスは開いた口が塞がらないといった風ですぐに二歳の自分が何をしていただろうかと思い出そうとしたが、かれこれ約二百年ほど前の話なので覚えているはずも無い。
普通の人間でも、自分の二歳の頃の話などおぼろげにしか覚えて居ないだろう。
そんな、自我さえも危うい時期に殺人など出来るだろうか。ましてや、体力も何も無い子どもに。
「いくらなんでも無理でしょ、そんな力二歳には無いし」
「殺し方は人それぞれだ。子どもの場合、窒息死させるのがよく見られる。二歳児の中には、赤子である自分の兄弟の顔に物を乗せたり、錠剤を突っ込む事件があったな。テレビなどの影響で、刑事物のドラマを真似て絞殺、刺殺したものもあったか。これは他の兄弟と一緒にしたというパターンが多いだろうな」
それは無邪気なようで恐ろしい遊び。
一つ間違えれば死ぬというような、ましてや『死』など理解をしていない子どもだからこそ出来る、残酷な。
そういえば自分が死というものを明確に理解できたのは何歳からだろうか。
特にチェスの場合はそういう概念が常人よりも少しずれた場所にあったので、随分と遅かったはずだ。
とはいえ、まだ自分が理解できているかと聞かれれば少し首を傾ぐ。
死というものは理解できる。
動かない、呼吸をしない、冷たくなる、魂は悪魔か天使か死神に持っていかれて輪廻転生をして、戻ってくる。
だけど死とは、よくわからない。
「一番恐ろしいのはそうやって人を殺しながらも罰を与えられないということだ。正当防衛とは言え、多少の罪は償うのが常だが、子どもにそれは無い」
「そりゃあ、…悪気はなかったんだから仕方ないんじゃない?」
「悪気が無いわけが無いだろう」
その言葉はこの世に無垢など存在しないと言いたげな、微かな隙さえも見せないほどの否定だった。