問題アリ(オカルトファンタジー)
フィンはこの物語のモデルとなる人間、ラルフと会ったことがあったのだ。
そりゃあ千年以上生きていればそんなこともあるだろう。勿論、フィンが覚えていても相手が忘れていることのほうが多いのだが。
事実では、道化師ラルフは道化師を目指す青年だったが、努力してもなかなか上達しなかった。
それを街人たちは指を差して笑いものにしていたのだ。集まった街人たちは彼のパフォーマンスというよりは失敗を見てあざ笑っていたのである。
そして一通り笑った後、投げて寄越したのは石。
ラルフは逃げるように裏路地に隠れ、猫を相手にパフォーマンスをしていたが、猫にも逃げられる始末。
お金を稼げげず、ひもじい思いをしていたラルフは、ある日裏路地にまでやってきて石を投げつけにきた街人の首を、的当て用の短剣で掻き切った。
ラルフの服は黒だったので、血がついても見えず、顔に飛び散った血も、化粧にしか見えなかった。
とても楽しそうな笑顔で、ラルフは人を殺した。
もっとも、その下の顔などわからない。
そうしてお金を盗んで、街を転々とし、捕まった頃には実に十九人をその手に掛けていたという。
ラルフは街人全員が嫌がった人柱として橋に埋められ、その生涯を遂げた。
その魂は特に未練はなかったという。笑顔の下のラルフは、この世界に絶望しきっていたのである。
悪魔に引き取られた未練のない罪深いその魂は悪魔の元で改心され、通常ならば数百年の後に人間へと転生することになっているのだが。
「……フィン様は、全て気づいた上で助けようと?」
「悪魔の尻拭いだよ。ホント、脳みその足りない下等どもは困るよなぁ。魂の転生を人形にすんなっつーんだよ。とりあえずあの魂を取り上げんのは簡単だけど、そのまま取り上げたら未練が残るだろ?地縛霊にしてから未練を解消すっと転生までに時間かかるからさ、間違えたっつーことで取り上げれば早めに転生できるだろ」
「優しいのかわかりませんね」