問題アリ(オカルトファンタジー)
思わずブレーキを踏みかけて、微かな理性がそれを止めて、しかし、目はピエロから逸らせずにその小さな身体がもぞもぞと蠢く様子を見つめていた。
まるで幼い頃にエドガーがラルフを動かしていたときのように、少したどたどしく、たまに腕がありえない方向へと曲がり、首の骨が確実に折れていると言えるほど傾げながら、その目だけ、母親に向けて。
荷台の縁に足を掛けて、その黒い身体は、エドガーの母親の車に飛び移ろうとしていた。
掛けた足に力を込めて、跳躍。
バンッ!
「きゃああああっ!!!」
ボンネットに強かに身体を打ちつけたラルフの腕がパキンと折れ飛んだ。
痛いともなんとも言わず、その表情も歪める事は無く、カタカタと口を動かしながら、ワイパーを何とか握り締めて、ラルフは掴まっていた。
途端、振り払おうとしたエドガーの母親は蛇行運転し始める。
目は周りの車など見ていない。
ただ、目の前の、ガラス一枚を隔てた、目の前の、青い目を、見ていた。
いや、目が逸らせなかったと言ったほうが正しい。
タイヤのゴムがギュウギュウ、と重たく擦れる音が聞こえ、道路に黒い線をつける。
突然の蛇行運転に後ろのトラックはブレーキをかけ、玉突き衝突を起こし、それを見た対向車線の車も急ブレーキを掛け玉突き衝突を起こし、前のトラックは玉突き衝突を起こした車が突っ込んで、大破。停止。
エドガーの母親は、そのトラックに突っ込んで、運転席はぺちゃんこにひしゃげ、母親の身体は眼球や脳髄、内臓をブチュ、と体外に噴出しながら厚みが十センチほどになって、発見された。
道路に設置された防犯カメラには突然蛇行運転をし始めたエドガーの母親が映っており、しかしその前を走るトラックの荷台にもエドガーの母親の車のボンネットにも異常はなかった。
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