問題アリ(オカルトファンタジー)
*




朝。


昨日の夜とは打って変わった晴天だった。


昨夜、呆然とするフィンを教会へ運び、火をおこし、フィンの肩に毛布を巻いて、それでも震えの止まらないフィンに、持っている力で何とか冷気を防御し続けたエレンは、徹夜明けにもかかわらず、コーヒーを作っている。


教会の中に薫り高い豆の匂いが立ち込める。


それを作りながら、エレンは開かれたままの戸から見える長椅子に三角座りをしているフィンに時折視線を向けた。


帰ってから、一度も話さないフィンは漸く乾いてきた服さえ昨夜は水気を落とそうともせず、泥だらけのズボンも、外套(マント)も靴もそのままだった。


カップに黒の液体を入れて、エレンはフィンの傍にコーヒーを置く。


が、フィンは手を伸ばそうとしないのでエレンはフィンにカップを持たせた。



「……フィン様…」



「…………」



目には、普段の生きた色はなく、エレンの声にも反応しなかった。


一つため息をついて、エレンは立ち上がると、教会を出てあの木がどうなったのかを調べに走った。


力加減などあったものではない精神の不安定さで、あの木が無事な保証はなかったのである。


むしろ、あの家ごと消し飛んだのでは。そう思えるほどに、強い光だった。


駆けて、十数秒。


家は、木は。


あった。


瞬時に猫に戻って様子を探ると、雷は木に落ちていた。だがしかし、真っ二つにも割れた様子も無く、焦げて葉や枝が黒ずんでいるがちゃんと存在していた。


グレタとシェリーは居なかったが、そこには一家が庭に出て、柿の木を見上げていた。



「…この木がなかったら、きっと家が潰れていたよ」



家主はそう言って、木の幹に手を伸ばして優しく撫でる。


その妻は木の傍で子供たちを抱きしめながら泣いていた。子供たちはよくわからないようで首を傾げながら母親が泣き止むように頭を撫でている。


塀の上でそれを眺めていたエレンの傍を温かい風が通った。



「グレタ…!」



エレンが振り返ると、グレタとエレンが笑いながら天へと昇るところだった。




< 91 / 122 >

この作品をシェア

pagetop