問題アリ(オカルトファンタジー)
ノエルがケニスに見つかるたびに、周りの人間は金を手にし、ノエルは身体に傷を付けられることになる。
いっそこの屋敷を抜け出して自分を助けてくれる場所があったなら。
しかしノエルにはここを抜け出したとして誰かが助けてくれるとは、思っていなかったのである。
この世界の全てがこの男の私物で、全員が匿う振りをして金をせびるのだろうと。
もう、今までの鬼ごっこで期待を全て失くしていた。帰りたいと思うような場所もなかった。進むことも戻ることも出来ないのである。
この屋敷に来るまで生活していた貧民街は、野生の無法地帯のようだった。
死体は洗濯物のようによく目にした。鼻がもげそうな、汗と汚物と吐瀉物などがない交ぜになったような悪臭も、当たり前のように存在し、そんな匂いを気にする人間はそこには一人も居なかった。
生まれた頃から、その匂いなのだから。
いつもどこかで発狂する人間の声が聞こえ、誰かが死んだら誰かが食べた。
やってくる生き物は、殺して食べて命をつないでいたが、繋ぐほどの命だっただろうかと問われれば、今はうまく頷けない。
ただ、そのときは必死だった。
何故か、生きるということに必死だった。
いっそあの時死んでいればそれ以上の苦痛などなかったというのに。
ない物強請りを重ねすぎて、気づけば手にしたものなどなにもないことに気づく。それでも次こそは、次こそは、を繰り返した。
そして、裏切られた。
いくら祈りをささげても、叫んでも、神は振り返りもせずに美しい場所で過ごす美しい鳥たちを愛でているだけだった。
汚らしいミミズなど見たくもないと言いたげに。
お金がない人間が必ず不幸を辿ると言う暗黙のルールがあるのならば、いっそ、そんな人間、生まれてこなければよかったのだと思う。