月読の姫宮
時、過ぎ行くな
太政大臣の二条院邸の渡橋に、一人の美しい姫が立っていた。
一人扇を舞うように踊らせ、桜の花びらが扇に乗ると、うっすら目を細めてそれを見つめた。
「時、過ぎ行くな。」
呟いた言葉は、夜の闇に溶け込み消える。
そっと上を向けば、まん丸の月が見えた。
「今宵は望月……。」
一条院の方から、楽の音が聞こえてくる。
あぁ、宴か。と姫は俯いた。
何が不満なの?
つい最近、そう問われた。
腹違いの姉、中の君…葵の姫に。
本当に、何が不満なのだろうか。
自分でもわからない。
栄光の中に生まれ、幸せに生きてきたはずだった。
なのに……。