僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「ない……」
祠稀がいつも髪を束ねる時に使ってるワックスがない。大きめで、洗面台に並ぶ物の中で唯一黒で、よく目立っていたから覚えてる。
朝には確かにあった。
部屋に持っていっただけかもしれない。出かけるのかな? それとも……。
頭に浮かんだ考えを振り払い、お湯を止めてからリビングに戻った。
「彗、もう入れるよ」
「あ、うん。ありがと」
リビングに戻ると、ちょうど彗がスウェットを部屋から持ってきたところで、凪はキッチンに立ってマグカップに水を注いでいた。
「……凪、調子悪いの?」
薬を飲んでいた凪に問いかけると、苦笑いが返ってきた。
「頭痛するだけ。ごめん、あたしもう寝るね。お風呂、明日の朝入るから」
「……そっか、おやすみ」
「おやすみ」
部屋に入る凪に、大丈夫?とは聞けなかった。
大丈夫、って返させてしまうことは避けたかった。
いつも賑やかだったリビングは静まり返り、自分の部屋に戻ったあたしは、無心に時が過ぎるのを待っていた。