僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
不如帰の泪
◆Said:祠稀
高い高い場所から見下ろした地上は、街頭や電光板の明るすぎる光のせいで輪郭がぼやけていた。
何がなんだか分からない。どれもこれも、偽物に見える。明滅を繰り返す光も、行き交う人々も、全て。
地上の光に混じって、椛が秋宵を赤に、柔く染め上げる。
その赤が、見下ろす全ての人間を染めてくれたら、どれだけいいと思ったか。
俺が必要なもの以外全て、真っ赤に染まって消えればいい。そしたらもう、大切な奴らが傷つくことなく、自由に空へ羽ばたけるのに。
地面に這いつくばる翼を失った者は、錆び付いた鎖で翼を持つ者を縛り付け、解き放さない。
羽根が全て抜け落ちるまで。自分と同じように黒く染め上げるまで。決して、逃がしはしない。
「……さみぃな、今日」
煤けた廃墟ビルの屋上に立ちつくす俺の肌を、ヒンヤリとした風が撫でる。
靡く長髪を耳にかけて、錆びれたフェンスのそばに紫蘭の花束を投げた。
1枚散った花弁を見てからしゃがみ込み、花束の前にセブンスターとライター、それと缶ビールを置く。