僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
折れない黒翼
◆Side:凪
「待ちなさい! 日向―――っ!」
落葉植物の葉が紅色に変わる頃、単調に時を刻む校舎から怒声が響き渡る。
昇降口から校門に向かう生徒たちは足を止め、先ほどまで退屈でしかなかった学び舎を、何事かと見上げていた。
「……逃げ出したのかな」
「は、走る準備しとく?」
彗と有須はそんな会話をするけど、あたしはひとり盛大な溜め息をこぼす。
「家帰ったら説教だね」
三角形で向き合うあたしたちは互いに顔を見合わせてから校舎を仰ぐ。
「いい加減にしないと処分するぞ! 日向っ!」
怒り心頭に発する先生の声など気にも留めてないのか、ガラッと2階の窓が開いたのが見えた。
「さよーなら、センセ」
なんて、皮肉めいた挨拶でもしてるんだろう。
夕暮れの赤い空に、橙色に染まる校舎。見上げた先にあるのはそれだけで充分なのに。
2階の窓から近くの樹に飛び降りる人影は、何度見ても慣れない気がした。