僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
◆Side:彗
「じゃあ凪、行ってくるから。ちゃんと寝ててね」
「お昼ご飯作っておいたからねっ!」
朝8時。未だ布団の中に潜る凪に声をかけると、布団の中からピースが出てくる。
凪のピースは『いってらっしゃい』と言う代わりに、上下に揺れていた。
俺と有須は顔を見合わせてから、静かにドアを閉める。
凪は昨日の夜から落ち込んでいて、寄り添って寝ても、なかなか眠らなかった。理由が分かってる分、マシだけど。
「……あの、彗。もしかして凪って体弱いの?」
今まで遠慮していた有須は、恐る恐る聞いてくる。もっとも、俺が聞かないでという雰囲気を出していたんだけど、隠すものでもないことは本当だ。
エレベーターを待つ間、俺は有須に聞かれたことを頭で繰り返し、小さく首を振った。
「体は弱くないよ。風邪も滅多に引かないし」
本当のことを言いながら、7階に着いたエレベーターに乗り込む。有須も乗ったことを確認してから1階と閉のボタンを押して、密室の箱は下降し始めた。
「……ただ、昔から寝付きが悪くて。睡眠不足続くと体調優れないでしょ? 凪は、それが人より多いんだ」
「……じゃあ、よく頭痛いって言ってるのも、そのせい?」
5階に止まり、マンションの住人が入ってくると、俺と有須は軽く頭を下げてから、後ろへと下がる。混んできたエレベータの中に眉を寄せて、俺は有須を見ずに答えた。
「そう。……病気とかしてないから、心配ないよ」
「そっか、よかった」
有須に微笑み返し、それから1階に着くまでエレベーターに乗る人は誰も喋らなかった。