僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
◆Side:祠稀
「ただいま」
夜7時。玄関のドアを開けると、2階から下りてくる足音が耳に入る。
俺はローファーを脱ぎながら、まさか俺の声が聞こえたわけじゃないよなと思いながら階段を見上げた。
「お帰り祠稀っ!」
「おー。ちゃんと勉強してんのかよ」
階段の途中で身を乗り出しながら俺を見下ろしているのは、髪を黒く染めたチカ。
もともと黒紫がかかった程度の髪色だったから違和感はないけれど、フードを被らないチカには、まだ慣れそうにない。
「さっき過去模試の答え合わせしたけど、82点だったよ」
階段を降りきって俺の隣に立つチカに、眉を寄せる。
「もう模試やらせてんの? スパルタかよ」
階段を降りて来た“先生”に言うと、返事の代わりに眼鏡を押し上げる枢稀。
「急ピッチでやらないと間に合わないだろ」
「でも僕、バカじゃないでしょ?」
そう笑うチカは枢稀に懐き始めていて、枢稀も見たことないような笑顔で「そうだね」と言う。
……なんだ、この俺との差は。別にいいけどよ。
「あ、お帰り祠稀」
階段の下に集まる俺たちの声が聞こえたのか、母さんがリビングから顔を出してくる。
俺は生返事をして、着替えるために階段へ足を乗せた。
「祠稀、もうご飯だよー?」
「すぐ行くっつーに」
わざわざ教えてくるチカに笑いながら、自分の部屋へと向かった。もう二度と戻ることはないと思っていた部屋は当然、昔と変わらない。
小難しい本と参考書ばかり並ぶ本棚は埃が被ったままだし、ヒカリが亡くなってから荒れに荒れた面影が、いくつもある。