僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「……殴り過ぎだろ」
部屋着に着替えながら、視界に入った壁に思わず笑う。力任せに殴った壁にはいくつも穴が開き、クライマーでもする気か、と突っ込みたくなるほど。
この家には、嫌な記憶しかない。
けど、いい。もう、いいんだ。
……俺も丸くなったもんだ。かと言って、煙草をやめるわけでも、素行がよくなるわけでもねぇけど。
胸に渦巻く黒い感情は、どこかへ行った。
親父が逮捕されて、なんの感情も湧かなかったわけじゃないけど、どんな感情かと聞かれても答えることはできない。
上手い言葉が見つからないんだ。
ただ、終わったと思った。いろんなものが、沢山のものが、終わりを迎えた。
でも、終わりがあるなら、始まりもある。
俺は新しい始まりを迎えたんだ。
母さんが望んだ、家族の再スタート。枢稀が償いにしかならないけどと望んだ、チカへの兄としての優しさ。俺が望む全ては、チカへ。
「あー。もう、ご飯だって言ったじゃん!」
壊れたままのドアを押し開けて、煙草を吸う俺の前に新しい家族が姿を現す。
俺はベッドに腰かけながら、声を出して笑った。
「なぁチカ。お前、幸せ?」
「んー、何いきなり」
ベッドの上にジャンプしたチカは、俺の後ろに回って抱き付いてくる。
なんだこれと思いながら、特に拒否するわけでもなく煙草を灰皿に押し付けた。
「お前は母さんと枢稀に、存分に甘えろよ。俺は、しなかったから」
「……祠稀が甘えるなんて、気持ち悪くて想像できないよ」
失礼な奴だな。まあ100%同感するけど。
首に回された腕は解かれ、俺の背中に体重を預けるチカに問いかける。