僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「母さんは、チカを息子同然に思ってる。枢稀は、チカを弟のように思ってる。……お前は? 今、どうなんだよ」

「……ありがとうって、思ってるよ。僕を引き取ってくれて、家族みたいに接してくれて。幸せ」


その答えを聞いて満足する。家族をやり直すこと、チカを幸せにすること。それが俺の、望みだ。


母さんに、息子らしいことができなくて。枢稀にも、弟らしくできなかった。


過去はやり直せない。だから過ぎ去ってしまった時間を、チカに託した。


俺は甘えることも、今より子供っぽいことも、もうできやしないから。


チカがいれば、母さんも枢稀も幸せで。家族を知らないチカも、幸せだろ。俺も、幸せだ。


母さんと枢稀と、チカの笑顔を見れるから。


「……お前はもう、大丈夫だな」


振り向いて、チカの髪を乱暴に撫で回す。「やめてよ」と言う割には嬉しそうにするチカに、頬がゆるんだ。


「受験頑張れよ」

「うん。僕、絶対祠稀と同じ高校行くんだ」


大丈夫だよ、チカなら。枢稀に勉強教えてもらえりゃ、合格したも同然。夜通し勉強するチカに、夜食を作る母さんも本望だろ。



背中に伝わるチカの体温に、瞼を閉じる。


長い、長い年月を振り返り。苦しさも悲しさも、喜びも幸せも全て受け入れて。


目を開ければ、胸に残ったのは温かさだった。


「……メシ食うか」


立ち上がった俺の後ろから、チカが「今日はねー」と夕飯の献立を話し出す。


チカの声も、階段を降りる音も、リビングから漏れるテレビの音や母さんと枢稀の話し声も。夜を想わせる、旋律のようだった。


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