僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「リフティングに負けたら入部しろとか言われて、超真剣にやっちまったし」
結んでいた髪を解く祠稀は誰が見ても綺麗で、汗臭さのひとつも感じさせない。
……女のあたしでも羨ましく思う男子って、なかなかいないよなぁ。
「で、勝ったの? 負けたの?」
隣に座る大雅先輩が聞くと、祠稀はズボンのポケットに両手を突っ込んで、妖艶に口の端を上げる。
「俺が負けるわけねーじゃん」
「っかー! 部員じゃないくせに、勝つなんてありえへんわ!」
「アンタに負ける気もしないけどな」
遊志先輩が大袈裟に上げた両腕の動きを止めると、祠稀は鼻で笑う。
どういう意味だろう。
そう思った矢先、祠稀は自ら答えを言った。
「凪が選ぶのはアンタじゃなくて、俺」
「「「………」」」
固まるあたしたちに構わず、祠稀は「帰んぞ有須」と言って歩き出す。
……え、な、何? な、凪? 凪が選ぶのはって、え?
「「えぇぇぇえ!?」」
「へー。凪ちゃんのこと好きなんだ。まあ、ポイよね」
「ポイじゃあらへん!! ちょー! 待ちぃや祠稀ぃー!」
「え、待っ、ちょ、待って祠稀っ!」
慌ててカバンを肩にかけて立ち上がり、追いかける前に振り向く。
「えと、一緒に待ってくれてありがとうございました!」
頭を下げると、「いいえー」と大雅先輩の声。
顔を上げると、暴れる遊志先輩を笑顔で締め上げる大雅先輩に驚いたけれど、早く行きなよと目で言われ、あたしはもう一度頭を下げてから、祠稀の後を追いかけた。