僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
ピーッと、高い機械音が寝ぼけていたのであろうあたしを覚醒に導く。
レンジを開けると、沸点ギリギリに熱くなったココアが湯気を出していた。そっと取っ手を掴んで、指に伝わる温かさにほっと息をつく。
舌が火傷しないように少しずつ飲みながら、リビングのソファーへと足を向ける。けれど、祠稀の部屋の前で立ち止まる足は、素直だ。
「……」
考えるより先に手が動いた。
静かにドアを開けると、蓮の香りに混じった煙草の匂いが鼻腔を擽る。
相変わらず、整理整頓された部屋とは言えない。あちこちに散乱した服や雑誌。テーブルの上は吸い殻の山に、空き缶やペットボトル。
あんな綺麗な顔をしておいてズボラだなんて、なんだかおかしい。
でも、祠稀の部屋だ。姿はなくとも、存在を感じた。
それもそっか。まだ2週間も経ってないんだから。
「汚いなぁ……」
そう呟きながら、乱れたシーツを少し直してベッドに腰かけた。
「悪かったな、汚くて」
灰が零れたテーブルの上にマグカップを置いた瞬間、あたしは開けっぱなしのドアを見る。
「どこ見てんだよ」
ガラリという音と、部屋に流れ込んだ外の空気。ドアからベランダへ視線を移す。
「……祠、稀」
「祠稀ですけど」
間髪を容れずに言った祠稀は、あたしの頬に流れるものを見て、目を細めた。
祠稀の後ろに見える空が曇っていても、冷たい空気が肌を刺しても、陽だまりのような温かさがあたしを包む。