僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「なんで……っ」


ありえない。なんなの、この不意打ち。


「なんだ、有須けっきょく言わなかったのか」


ムカつく。なんの話か分からない。


「今日の朝、戻るからって話しておいたんだけど。俺の分もメシ作ってもらわなきゃ、困るし」


何様のつもりなのよ。
ふざけんな、バカ。
連絡くらいよこしなさいよ。


色んな悪態を呑み込んでも、涙は止まらない。俯くあたしの足元に祠稀が膝を付いても、いちばん言いたい言葉が紡げない。


「……まあ、直接言えばいい話だけど」


毛先を軽く引っ張られ、顔を上げる。


――祠稀だ。目の前にいるのは紛れもなく、祠稀。


「俺の家は、ここだよ」


どうしてこんなに、愛しいんだろう。


「……っおかえり」


最悪だ。
スッピンだし、泣いてるし。


でもそんなことはどうだっていい。祠稀が笑ってる。そばに、いるから。



「どこにも行かないで」



頬を滑る雫が、祠稀の温かい指に止められた。そのまま頬を包まれて、微笑みを浮かべた祠稀の顔が近付く。


……あ。

そう思った瞬間、コツンと互いのおでこが当たった。


「行かねーよ」


こんなに至近距離で祠稀の顔を見たことがないのに、祠稀は優しく笑って、目元にキスを落としてきた。


涙を食べるように、柔らかい唇の感触がして、あたしの体温は急上昇する。


離れる祠稀を目で追うと、するりと頬を包んでいた手が離れ、体温が下がった。


「泣き虫」


フンッと意地悪く笑う祠稀にハッとして、近くにあったクッションを力任せに投げつけた。
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