僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「昨日、寝言で呼んでたから」
「やめて」
凪の顔が曇ったと思った瞬間、耳に届いたのはハッキリとした彗の声。
見ると、彗は眉を寄せることで、祠稀がこれ以上喋ることを牽制しているようだった。
……なんで凪が難しいのか、どうして凪は自分の体を他人の物のように扱ってるのか。祠稀は、それが“サヤ”という人に関係あるかもと知ったんだ。
でもこれで、彗が止めたことで、本当だと分かってしまった。
「……あは。いいよ彗。ビックリしただけだし、別にサヤのことを隠す必要ないし」
「そういうことを言ってるんじゃない」
「じゃあ、どういうつもりで止めるの?」
「……、分かったよ」
彗は何か言いかけ、口を噤んだ。呆れたような溜め息も聞こえたけれど、相変わらず眉を寄せている。
そんな彗を見て凪は微笑むのに、なんで悲しそうに眉を下げるのか。
……分かんない。
凪と彗の間には、絶対に入れない領域がある。
ズキズキと、感じたくもない胸の痛みに嫌気がさしながら、「んー」と、考えるように口を開いた凪に視線を移した。
「そうだなぁ……恩人? かな」
「……恩人?」
祠稀が眉間に皺を寄せた理由が分かる。好きな人じゃないのかと、あたしも思ったから。
その反応を見て、凪は唸りながら額に手を当てた。
「いや、んーとね……なんだろうなぁ。好きだった人? 叶わなかった恋? いや……うぅん……なんだろうね、彗」
「……俺にフるかな、そこで」
彗は水の入ったペットボトルを手に持って、凪の隣に座る。
あたしは祠稀と彗に挟まれて、一度も会話に参加してないことに気付いた。