僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「医者とセンコーか……サヤサヤサヤサ……ヤサ……あークソ、本名で呼べよ!」
「し、祠稀……あたしたちの近しい人にサヤさんはいないんじゃないかなっ」
マンションに着いて、エレベータが来るのを待ってる間も、祠稀は眉間に皺を寄せて考えてるみたいだった。
あたしもちょっと考えてみたけれど、全く浮かばないからすぐに諦めた。
「いた」
「……え?」
707号室の前で呟いた祠稀を、勢いよく見上げる。
いたって、サヤさん? え……だって……凪が中学のころ……あたしたちが知るわけがないんじゃない?
「早坂」
「ハヤサカ……?」
確かにサヤと入ってるけど。さすがにそんなあだ名はないんじゃない?
そう思ってると、祠稀はドアを開けて家の中に入っていく。後に続くと、祠稀は一瞬立ち止まってからリビングへと向かった。
その理由が、凪のパンプスがないからだとすぐに気付いたのに、早坂とは誰だったか思い出せない。
決して静かとは言えない音を立てて開けられたドアの先には、ソファーに座る彗の姿。テレビを見ていた彗は振り向くと、「おかえり」と眠そうな目を細めた。
「凪は?」
ダイニングテーブルに買ってきた物を置いて、彗に問う祠稀は些か不機嫌な感じがする。
「……凪なら、病院」
え?
どこか具合が悪いのかと思ったのに、祠稀が口にしたのは違う言葉だった。
「サヤのとこに行ったんだろ」
「……祠稀は鋭くて、困るね」
祠稀の問いは正解だと言うように、彗は目を伏せて微笑む。