僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「……そう。凪なら、サヤのとこに行ったよ」
「……!」
思い出した。
早坂って、祠稀のお母さんの主治医だった人だ。凪が、知り合いだって言ってた、お医者さん――……。
「なんっで……行かせてんだよオメーは!」
「っ祠稀! ダメッ、喧嘩はダメー!」
胸倉を掴まれ、祠稀に威嚇される彗はムッと眉を寄せる。
「俺、誰の味方でもないもん」
「たまには少しくらいブレろっつーの!」
「イヤ」
「祠稀ぃぃい!」
プイッとそっぽを向いた彗に、今にも殴りかかりそうな祠稀を必死に止める。
祠稀は盛大な溜め息をついてから彗を離すと、ドサッとソファーに座って煙草に火を点けた。
「お前、凪が大事じゃねぇのかよ」
「……大事だよ、何言ってるの」
ふたりが醸し出す険悪な雰囲気に、あたしはハラハラすることしかできない。
頭の隅では、早坂さんがサヤだってこととか。じゃあ凪は昔病気してたんじゃないかとか。
早坂さんと凪の関係は、いわゆる不倫ってやつなのかとか、色々考えてはいたけれど。目の前のふたりから目を離すことはしなかった。
「結婚してる相手に恋慕って、それでいいのかって言ってんだよ」
「……凪は、サヤのこと好きなんかじゃないよ」
「はぁ!? 大嫌いな奴にわざわざ夜会いに行って、何が好きじゃねぇだよ!」
「……怒鳴らないでよ」
眉間に深く皺を刻む彗に、祠稀は苛立ちを抑えるようにフィルターを噛んだ。