僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「……ダル……」
空が僅かに鈍色に染まった頃。ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で整えながら、ベッドに横たわる筋肉質な体を眺める。
スーッと静かに寝息を立てるイイ男は、いびきのひとつも掻かないのか。
先に意識を手放したのはあたしだけれど、疲れてるだろうし、起こすのもかわいそう。
まだかすかに残る体の微熱は、どうにか冬空の下で掻き消そう。
ティッシュに包まれた欲望のそばに落ちる下着を拾い上げ、のろりくらりと身に付けた。
自分の体が思ったほどベタついてないのも、僅かに香るボディローションの匂いも、いつものこと。
あたしは先に寝てしまって、シャワーを浴びるのも面倒くさがるから、抱いてくれた彼がいつも湿らせたタオルで体中を拭いていてくれる。
拭いきれない男の匂い、汗の匂い。あたしはそれを纏ったまま、黒のボレロに袖を通した。
鞄の中から電源を切っていた携帯を取り出そうと思ったけれど、手に取ってから再び奥底に押し込む。
変わりに黒いレースのシュシュを取り出して、適当に髪を括った。
……ストレートに戻そうかな。
手入れが面倒なスパイラルの赤毛を軽く引っ張って、溜め息をつく。そのまま鞄を持って立ち上がり、穏やかに眠る彼の顔を覗いた。
少し髭が伸びてることがおかしくて、笑いながら頬にキスを落とす。
「……ん」
身を捩って口の端を上げる姿は、いい夢でも見てるんじゃないかと思った。
聞こえはしない言葉の代わりに頭を撫でてから、あたしはひとりで部屋を後にする。
底冷えの早朝、静かに頬を流れる涙には、誰も気付きはしなかった。