僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「あれ? 凪、まだ帰ってなかったの?」
教室に入ると、クラスメイトが声をかけてくる。
「有須たち帰っちゃったよー?」
「今日あたし用事あるから、先に帰ってもらったんだ」
自分の机から鞄を取り上げて肩にかけると、「珍しいねー」と言うクラスメイトに笑う。
「ずっと一緒にいるわけじゃないよ」
バイバイと挨拶を交わして教室を出る。あたしはゆっくりと下駄箱へ向かった。嘘をついたから、大雅と遊志に会わないようにしなきゃ。
勉強はできないくせに、嘘をつくことだけは得意な自分がおかしい。
「わ、あの子寒そう」
そんな言葉をもらいながら、12月の空の下をコートも着ず、マフラーも手袋もせずに歩いた。
今日は、パパがマンションに来る。リビングでお茶して、夕飯を一緒に食べる程度。
僅かな時間、たくさんの嘘を平然とつけばいい。
サヤへの想いを隠すことに比べたら、簡単すぎる。
あたしは今日も心の奥に鍵をかけて、夢虹 凪を演じればいい。たったそれだけのことだ。
「早坂せーんせっ」
「……脱力するな、先生とか呼ばれると」
「仕事お疲れさま」
マンションとは逆方向にある百貨店の地下駐車場。
黒い3ナンバーの車体に寄りかかっていた人影に近付き、顔の半分を隠していたサングラスを取ってあげた。男らしい微笑みに笑い返して、抱き付く。
「煙草くさーい」
「凪は寒そう」
腰に手を回したまま見上げると、携帯灰皿に煙草を押し付ける、白衣を着てなければただの28歳に見える男。