僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「でも僕は、それでいいんだ」
チカがカップに押しつける独特な煙草の匂いが、鼻をかすめる。それはあたしもよく知っている匂いだった。
「僕と、大切な人以外、何もいらない」
カップに横たわる吸殻を見ているんだろうか。力強く押し潰された煙草は、グシャリと潰れていた。
それはまるで、チカの言う『僕と大切な人以外』の在りさまのようで、背筋に嫌な緊張が走る。
「……チカには大切な人がいるの?」
ゴクリと生唾を飲み込んでから、チカに視線を移す。
「僕を、救ってくれた人」
と、チカはゆっくりとあたしに目を遣り、見える口元に弧を描いた。
「暗闇で泣いてた僕に、手を差し伸ばしてくれた人。綺麗で、凛として、かっこいいんだよ。足元を照らす、光そのもの。僕をどこまでも自由に連れて行ってくれる」
「……そうなんだ」
「凪にも、いる?」
よっぽど大切な人なんだろう。どことなく声を弾ませるチカに、あたしの胸は痛みを孕む。
ちゃんと笑えただろうか。