僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


◆Side:有須



声を荒げた彗は苦痛に顔を歪ませた。でもそれは一瞬で、今はもう、諦めにも似た表情で微笑んでいた。


あたしと祠稀がどれだけ歩み寄ろうとしても、彗は歩んだ分だけ後退する。


向かい合うことはやめないでくれるのに、距離だけは縮めてくれようとしない。


もどかしい。縮まらない距離が。

もどかしい。伝わらないことが。


『壊れればいいと思う』


悲しい、悔しい。

凪がいなければ、生きていけなそうな彗が。


彗がいなければ、死んでしまいそうな凪が。


ふたりしか入れない世界。ふたりだけの小さく狭い世界が、あまりにも悲しくて。あたしも祠稀も入れないことが、入れてもらえないことが悔しい。


凪がサヤさんを愛してることも、緑夏さんを憎んでることも分かるのに、どの程度の愛憎なのかなんて計り知れないんだ。


あたしは誰かを殺したいほど憎んだことなんてないし、愛してるなんて言葉を使えるほど想いが溢れたこともない。


『……祠稀も有須も、凪の気持ちなんて理解できないでしょ?』


彗は、あたし達が理解できなきゃ頼りたくないんだ。


理解できないと分かってるからこそ、頼ろうとする素振りも見せないんでしょう?


彗が言ったことは当たってる。分かっていても、きっと理解はできない。


それでも立ったまま動かないあたしと祠稀は、諦めが悪い。


震える唇を開こうと何度思っただろう。


何を言っても拒絶されそうで怖いのに、あたしはどうしても踏み込みたい。


あたしが壊れればいいと思うのは、あたしと祠稀と、凪と彗を別つ壁だ。

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