僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
『……知った時、怒んなかったんすか?』
祠稀ははっきりと、“誰と”の関係かは言わなかったはずだ。
『中2の頃かなぁ……。怒るとかは、しなかった。できなかったって言ったほうがいいかな。ほら、俺、親バカなんだよねぇ』
そんな会話をしたと、祠稀に聞いた。
まるで雪のように、寂寞とした部屋に積もる重い重い空気。
あたしは顔を両手で覆ったまま、漏れそうな嗚咽を堪える。
「……颯輔さんは凪に愛されてるって、気付いてるんだ」
ねぇ、彗。
……間違ってる。そんなのは、間違ってるよ。
「本人に確認したわけじゃないけど、気付いてるよ。嘘が下手なんだ、颯輔さん」
「……凪、は……」
掠れるような祠稀の声と。
「気付いてるよ。自分の想いがバレてることに」
彗の淡々とした声に、とうとう嗚咽を漏らしてしまった。
「……お互い気付かないふりして、今にも崩れそうな家族ごっこ。それでもお互い、崩れないように必死なんだ。……分かる? 凪がどれだけつらいか」
――馬鹿だ。もう、嫌になる。自分が、何もできないとすぐ思ってしまう自分が。
颯輔さんが知らぬうちに。気付かぬうちに。意識してなかったけれど、それが大前提にあった。
凪がこのまま颯輔さんを想って、彗と共に堕ちていくのが怖かった。
……女として、彗が好きなあたしはそれを赦せなかったのも、ないと言ったら嘘になる。
だけど、颯輔さんが凪の想いを知っていて。凪もそれを知っていて。
お互い仮面を被って家族を続けることが、凪の幸せなのか。きっともう、そんな次元の話じゃない。
「……ふたりの気持ちが、鬱陶しかったんじゃない」
ぽつりと呟いた彗に、恐る恐る顔を上げた。涙で滲む視界に、彗の苦しそうな表情が映る。
露骨に顔を歪め、下腹部で握られた拳は、微かに震えてるように見えた。