僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
憂き世は瓦解する
――3年前、春。
「なーぎーっ! 起きなさい!」
春はポカポカ陽気だなんて、嘘だ。
シャッと、空気を裂くような音は、暗かった部屋の陰影さえも切り裂く。
閉じられた瞼を通り抜けた太陽の光に、あたしは渋々起き上がるわけもなく、頭から布団を被り直した。
「なぁ~ぎぃ~! ほら、いいお天気だよ!」
「やぁーだぁー…」
引っ張られる布団を取られないようにする力は出せるけど、起き上がる力はこれっぽちも出ない。
寒いし、昨日も寝付きが悪くて遅くに寝たんだから。
溜め息が頭上から聞こえると同時に、布団を引っ張る力が完全に消える。
「じゃあもう、見せてあげな~い」
「……」
「いいのかなぁ。それとも先に俺が見ちゃおうかなぁ?」
何のことを言ってるのかと頭も冴えているのに、まだ起き上らないあたしは、たった一言で飛び起きた。
「彗から返事きたよ?」
「見せて!!」
バッ!と、勢いよく起きたあたしの視界には、手紙らしきものはない。
「残念。リビングに置いてきました~っ」
「……最っ悪」
「はいはい、顔洗って歯磨きしてから読むこと。……ね? 凪」
「……はーい」
「うん、いい子」
口を尖らせるあたしの頭を上下に緩く撫でてから、部屋を出て行くサヤ。
本名は夢虹 颯輔。あたしの父親代わりだ。
――夢虹 凪、中学1年生。
亡くなってしまったお母さんの恋人、血の繋がらないサヤと暮らし始めて10年。
決して大変じゃなかったわけではないけど、一度も苦しいと思ったことはない。
お母さんが死んで、泣いたし寂しかった。だけどサヤがいたから、ふたりで頑張ろうと思えた。
ふたりだから、乗り越えられた。
それだけは、いつまでもあたしの胸に色褪せず、残っているものだった。