僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
まだ7時半過ぎ。学校に行くまで、まだまだ時間に余裕がある。
壁にかかる時計から目を逸らし、彗からの手紙を眺める。
……最近、返事が遅い。あからさまに、極端に。
今まで週1ペースでやり取りしていたほうが変なのかもしれないけど、急に遅くなるほうが不自然に思えた。
文面も、相変わらず短く淡泊。それよりも急に冷めたような感じがする。
「……思春期かなぁ」
ベッドへ腰かけると、リビングから慌ただしい音が聞こえた。時計を見上げると、いつもの時間。
「凪! いってきま、」
「いってらっしゃい。あと、いきなり部屋開けないでって何回言えば分かるの? 馬鹿なの?」
「ああっ! ごめっ……馬鹿って……そんな……ひどい」
急いでるくせに泣き真似をするサヤに笑って、あたしはベッドから降り、手を伸ばす。
グレーに細い黒でストライプが入ったネクタイの曲がりを直して結び目を叩くと、感じる視線。
「ん?」
「へへっ、ありがとう凪」
「どーいたしまして。早く行かないと遅刻だよ、しゃちょー」
「ぎゃあ! じゃ、じゃあ行ってくるね! 戸締りちゃんとするんだよ! それから知らない人が来ても出ちゃ……」
「あー! はいはい分かった分かった、分かりました! ほら行って!」
いつも通りあれこれと口うるさいサヤの背中を玄関まで押して、磨かれた革靴を履くのを見守る。
「よし、いってきます! 今日は早く帰ってくるね!」
「うん、いってらっしゃい」
開かれたドアから差し込む光が、きっと満面の笑みを逆光で隠す。
あたしは手を振って、ドアが閉まるのを見届けた。