僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


――サヤは本当の父親じゃない。


あたしはそのことを、友達の誰にも言ったことがなかった。言おうと思ったことすらない。


だから友達の前では“サヤ”を“パパ”と呼んでいる。


意識して呼んでるわけじゃないのに、人前で自然と口に出るのは“パパ”だった。


そうしろと言われたわけじゃないのに、気付いた時には定着していた。


あたしは知ってる。サヤも外では娘だと言ってること。


本当の、血の繋がった娘であるように。まるで生まれた時から一緒にいるみたいに。家では違うのかと言われれば、そうでもないと思うけど。多分、ちょっと違う。


サヤは他人から見れば相当な親バカだ。


だけど家では、あたしにとっては、ただの男の人だ。


親バカだと思うし、ヘラヘラしてだらしないと思うけど。ふとした瞬間、サヤは本当に自分の父親ではないと実感する。


29歳の男の人。本来在るべきものなんだろう姿が、時たま垣間見えるんだ。


血が繋がってないという先入観がそうさせるのも、サヤが家でリラックスしてるからだということも分かっているけれど。


あたしは堪らなくそれが嬉しい。


まるで、家が秘密基地のような。ふたりでいる時だけが、何よりも安らぐような。


サヤがいるから、あたしがいる。
あたしがいるから、サヤがいる。


本当の父と娘でなくても、血よりも濃い絆があると感じる。


そんな特殊とも言える関係が、なんて贅沢なんだと思うし、幸せに思う。


あたしはきっと、それを他人に教えたくないんだ。


ふたりの秘密ならば、ふたりだけで共有していたいと。


これから先、ずっと。ずっと、ふたりでひとつだと。それだけで充分だと、思っていた。
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