僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「んー、あたし天才?」
時計の針が指すのは夜8時。洗濯物も取り込んで片付けたし、3LDKの家を隅々まで掃除して、夕飯の準備も終えた。
自分で言うのもなんだけど、いい奥さんになると思う。
ビーフシチューの鍋にかかる火を弱くし、リビングのソファーへと向かった。
テーブルに置いていた携帯を拾って腰掛けると、久美へメールを作る。明日の放課後のことに他愛ない話題を付けて送ると、すぐに返ってくる返事。
それを何度か繰り返してる内にインターホンが鳴った。時間を確認してから携帯を置き、誰かも確かめないまま玄関へ向かう。
「……おかえり」
サヤはものすごくガッカリした顔で立っていた。
人がドアを開けて待ってるっていうのに、一向に入ってくる気配がない。
「インターホン、出てよ……なんのために毎回押してると……」
「だって、誰だか分かってるし」
「俺は、俺だよ!ってワンクッション入れたいの!」
めんどくさい。
「分かったから、早く入ってよ」
「分かってない! 毎回そう言って出てくれない! ひどい!」
「じゃあもう鍵すら開けないから、ひとりで入ってくれば」
閉めようとすると、ガッとドアを掴んで「もっと嫌ー!」と叫ぶサヤは、どう考えても父親とは思えない。まるで子供だ。
「あー、またそうやって笑うんだ。いいよいいよ、俺のことアホだなって思ってるんでしょ」
「馬鹿だとは思ってる」
玄関に上がったサヤのショックを受けた顔を見て、鼻で笑う。
「ひどい……泣く」
「早く着替えないと、夕飯食べさせないから」
それだけ言うと、サヤは急いで自室へと向かって行く。その背中を見ながら頬が緩むのは、いつものことだった。