僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「泣くなよ有須。もう、過去の話なんだからよ」


困ったように笑う祠稀に、有須は余計涙を誘われたみたいで、両手で顔を覆ってしまった。


……有須にはきつい話だ。


いじめられていた有須の唯一の味方は、血の繋がる家族だけだったんだから。


本来なら、誰よりも無条件に愛情を注いでくれるはずの親に、祠稀は虐待されてたんだ。


きっと有須には、想像できないんだろう。


俺は、似たり寄ったりだけど……。愛情を注いでくれた親代わりは、いた。


存在を無視されて、否定されて。祠稀はそれに、暴力がついていた。それはどれほど……。


ぐっとテーブルの下で拳を握る。


分かるわけない。祠稀の本当のつらさなんて、受けた本人にしか分かるはずないのに。


それでも何か、祠稀のために何かできないのか考える俺は、お節介なのかな。


「俺が応募したのは、そろそろ出てけって言われるだろうなって頃に、ちょうどよく凪の募集を見かけたから」


じっと視線を逸らさない凪に、祠稀は口元を緩ませる。


「感謝してるよ、凪」


ぐっと、息を呑む。というよりも、涙が滲みそうになるのを堪えるために呼吸を止めた。


隣で静かに涙を流した凪も、きっと同じことを思ってる。


何に、感謝してるの。同居人に選んでもらえたことに? 求めた家を与えられたことに?
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