僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
有須と同じように涙を流したのに、祠稀は凪に声をかけなかった。泣くなよって、言わなかった。
声をかけたら、有須のようにはいかないと分かっていたのかもしれない。
凪は俺や有須の時みたいになんとかしようと、もがく。それは凪の性格で、優しさ。
でもそれは、祠稀にとってはお節介で、いらないもの。
だからこそ、過去だと。現在進行形ではないと、先手を打った。
確かにそうかもしれない。でも凪にとってはそうじゃない。傷は、残るものだと知っているから。
これ以上話すことはないと逃げるように風呂場に向かった祠稀を、凪はどう思っているんだろう。
何かすることは許されないんだと、分かっているだろうか。
「凪……」
分かってるから、泣いてるんだね。
「祠稀が、過去だって言ってるんだから……」
涙を拭おうとした手を這うように滑って、凪はストンと俺の腕に顔を埋めた。
「……仲直りは、しなくていいの?」
そう嘆く凪を、胸に抱き寄せた。そのまま痛みを分かち合うように強く抱き締める。
「ねぇ、彗……。家族なのに……っ?」
「……」
何も言えなかった。祠稀が過去だって言ってるんだから、大丈夫だなんて無責任な言葉を、今はかけられなかった。
だから俺はただただ強く、凪を抱き締めた。