僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


虐待されていたのは過去だ。今はされてない。それは、本当だと思うけど。


「ねえ彗……壊れたままで、傷ついたままで、祠稀はいいのっ……?」


家族は壊れたまま。祠稀は傷ついたまま。


……過去なんて、どこにも見当たらない。


――祠稀。知りたかった秘密は、確かにあった。確かに話してくれた。


だけど、俺の中では答えに繋がらないよ。


前と比べものにならないほど喧嘩っぱやくなった理由。頻繁に深夜、出歩くようになった理由。


俺が尋ねた疑問にさえ答えれば、曖昧にできると思った? 


……語られた真実は、真実を隠したんだね。



リビングに戻ってきた有須に顔も向けず、俺は腕に抱く真っ白な存在を、離さなかった。


俺だけは泣くまいと、心に誓って。


俺だけが、お節介を焼こうと心に決めた夜。



小雨が降る夜の空では、薄い雲が月を隠し始めていた。



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