僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
◆Side:祠稀
「言うの忘れてたんだけど」
いつも通りのような、そうじゃないような朝食の時間。俺は珍しく珈琲を飲みながら、口を開く。
昨晩の続きだと分かったのか、凪の箸が動きを止めた。
「今日から来る教育実習生、俺の兄貴だから」
有須が思いっきり目を見開いたことに、危うく吹き出しそうになる。彗は、やっぱり掴めない表情をしていた。
「まあそれだけなんだけど、一応。ごっそさん」
誰も言葉を発さないのをいいことに、俺はマグカップを置いて洗面所に向かった。
「ダリィ……」
鏡に映る寝不足の自分が、なんとも腹立たしい。
昨晩、言うんじゃなかったと後悔した自分を力の限り殴りたい。
……話したくなかったわけじゃない。話したことに、後悔したんじゃない。
秘密を言った後、自分が弱くなったから後悔した。
虐待なんて過去で、どうでもいいことなのに。それを聞いた凪たちにどう思われるのか。そればかりが胸の奥に渦巻いた。
そんなことを思う自分がいるのに気付かされたことで、言うんじゃなかったなんて思った。
弱い俺なんて、1番いらない。
だから凪を拒んだ。頬を濡らした凪が紡ぐ言葉はきっと、俺をもっと弱くしそうで。そんなこと、絶対にご免だった。
俺は誰よりも、何よりも強くなると、あの日誓ったんだ。