僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「祠稀……」
小さな声によって現実へ引き戻された瞬間、鏡に映る人影にビクッと肩を揺らしてしまった。
「なんっ…だよ、凪か……。脅かすなよ、幽霊かと思ったじゃねぇか」
ドアを少しだけ開け、隙間から覗く凪に苦笑しながら振り向き、ドアを全開にした。目の前に立つ凪が、今日はなんだか小さく見える。
「何? 歯磨きしたいならしろよ」
「ちがっ…くはないけど……」
凪の目元が少し赤い。虐待の話を聞いたからなのもあるだろうけど、何かしたいのに、俺がそうさせないことが悲しかったんだろうか。
「悪かったよ、変な話して」
「っ! そんなこと思ってない!」
分かってるっつーの。お前は、なんでも受け止めるからな。
「凪。お前はなんとかしたいって思ってるかもしんねぇけど、必要ないんだよ、ほんとに」
疑いの目を向けてくる凪を鼻で笑って、乱暴に頭を撫でた。
「お兄さんが来るって……」
乱れた髪を直しながら、凪は小さく呟く。
「ああ、とりあえず一発殴ってきてもいい?」
「いやダメでしょ!」
間髪容れずに突っ込んできた凪にケラケラ笑うと、心なしか少し安心したみたいだった。
……そうだよ凪。なんてことない。
今、兄貴に会ったところで俺は虐待を受けるわけじゃない。殴りにだって行かない。興味すらない。
俺は必要なもの以外、いらないんだよ。
それがたとえ、家族という関係であったって。