僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「な、凪はそういうことできる……よね、ごめん……」
大雅先輩に体育倉庫へ連れられてきた時、それは目の当たりにしてるのに……。
3人分の視線を感じながら、自分のマグカップに視線を落とす。
……あの時は、自分の体を大事にしてほしいと思った。あんな風に、乱暴に扱ってほしくないと思った。同じ、女として。
だけどそれは、正しいのか分からない。
体を道具のように扱うことが、汚れてるとかふつうではないと言われるとして、それはいけないことなのだろうかと疑問に思わなくもない。
あたしは嫌だけど、凪のそんな姿を見て悲しくなったけど。でも凪は、体を投げ出す代わりに心を守ってる気がしてならない。
それなら。
それなら……。
だけど他に方法があるんじゃないかと思いたい。
誰かと体を重ねなければ毎日を過ごせなかった凪が、こっちに来てからそういうことをしなくなったのなら。
それはあたしたちと同居を始めて、少なからず満たされていたんじゃないかと思いたい。
「――ま、他にも可能性はあるんだけど、その前に話しておかなきゃいけないことがあるから聞いてくれる? 3人そろったことだし」
モヤモヤと拡がる思考に割って入ってくる、低く滑らかな早坂先生の声。顔を上げると、彗も祠稀も彼を見ていた。
凪が唯一肉体関係を続けていた人でもあり、もしかしたら彗よりも凪の心に入っていったカウンセラー。
「……なんだよいきなり」
祠稀が眉根を寄せると早坂先生はテーブルに肘をついて、絡めた指の上に顎を乗せる。
スッと目を細める仕草は、あたしたちを見定めるもののように感じた。
「凪が不眠症なのは知ってるよな、みんな。どの程度理解して、どう思ってる? それとも凪の口車に乗せられて、たいしたものじゃないと思ってる?」
「「――…」」
声を出せないのはあたしと祠稀だけだ。
「あぁ、別に怒ってるとかじゃない。ただ、そうだろうなと思ってたから話しておくだけ」
……わざわざ今ここで話すのはやっぱり、安易に考えていいものではなかったということでしょう?